大学がまちづくりの最先端となる  ~ポートランド州立大学の先行事例を元に~

大学がまちづくりの最先端となる  ~ポートランド州立大学の先行事例を元に~

早稲田大学教育学部2年 2017年3月〜2018年3月PSUで留学

ポートランド州立大学パブリックサービス研究・実践センター、インターン生

工藤城二 (著)

 

「大学」のイメージを一言で表すと何だろうか。”勉強する場所”であろうか、はたまた”人と交流する場所”であろうか。感じ方は人それぞれだろうが、私の中には「まちづくり」というキーワードが浮かんでくる。

大学と「まちづくり」に何の関係があるのだろう、と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし積極的にまちづくりに関わり、街で大きな役割を担い、多くのコミュニティと繋がっている大学が、アメリカ合衆国西海岸オレゴン州に存在する。

その名はポートランド州立大学、通称PSU (ピーエスユー)と呼ばれる。学生およそ[1]27229人[2]192の学部学科で構成されている。文系理系問わず、入学時に全学生が192ある選択肢の中から自分の専攻を選ぶことができる。オレゴン州からだけでなく、全米から、さらには全世界から毎年たくさんの学生が入学する。

キャンパスとしてのきっちりとした敷地の仕切りはなく、ポートランドの街と大学が一体化している。毎週土曜日にはファーマーズマーケットが行われたり、頻繁にイベントが催されたりなど、誰でも気軽に大学構内に足を運べるようになっている。”人の集まる場”を積極的に作る、そんな大学だ。

近年ポートランドはサステイナブルな都市開発の最先端地や全米一住んでみたい街として知られてきている。その背景には、行政、ネイバーフッドアソシエーションなどたくさんの団体や人の長年に亘る活動の積み重ねがある。中でも、ポートランド州立大学は学生と街をつなぐというとても重要な役割を担い、街にたくさんのイノベーティヴでクリエイティヴなアイデアを与えるきっかけを作っている。

1991年オレゴン州知事によって、ポートランド州立大学は”Engaged Universityに認定された。Engaged Universityとは[3]互恵的に交流し、探求し、さらに知識、専門知、資源、情報を応用することを通じて、外部の支持者やコミュニティとの直接的な相互作用に貢献する大学である。つまりPSUは生徒のために学問の質を高めるのみならず、街をも巻き込んで、街と大学がともに協力し成長するという高等教育の在り様を追及していく大学であるということだ。ポートランド州立大学のモットーは「Let Knowledge Serve the City (知識をもって市に貢献せよ)」で、大学で教授されている知識を机上の空論でとどめず、実際に街にも浸透させようという意思が詰まっている。

PSUのEngaged Universityとしての最大の取り組みがSenior Capstoneである。これは卒業必須単位となっており、文系理系問わず全学部生この授業を履修しなければならない。Senior Capstoneの特徴はすべての授業がCommunity-Based Learning(コミュニティベース教授法)でおこなわれており、学生たちはコミュニティの活動に携わる。コミュニティが実際に行なっている行動のサポート、直面している問題の解決にコミュニティと一緒になって取り組み、学習成果は学生が実際に関わるプロジェクトを中心に設定される。クラスは総計89種類あり、生徒はその中から自分の興味のあるものを一つ選ぶ。要するに一つのクラスに色々な学部の学生が集まり、お互いの知識を共有しながら授業を進めていくのだ。

具体的にSenior Capstoneの授業の例を幾つか紹介しよう。私は、ポートランド州立大学パブリックサービス研究・実践センターで行われた2017年の

1 2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップの一環でトライオン・クリーク州立公園を訪れた際の一枚

2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップ、トライオン・クリーク州立公園 にて

コミュニティ・ベース教授法のワークショップにインターンとして参加し、そのプログラムの一環としてSenior Capstoneの授業の一つである「Outdoor and Environmental Education (アウトドア活動と環境教育)」の話を聞くことができた。このクラスはトライオン・クリーク州立公園がパートナーで、学生がそこに週に数回訪れ、公園に訪れる小学生をガイドしながらレクチャーを行う。と同時にこの公園が抱えている問題を解決し、向上を図るプロジェクトを実行するという内容であった。

 

このクラスのインストラクターであり、トライオン・クリーク州立公園長であるゲイブ・シオシップ氏は「このクラスを受講した学生は今まで現場で子供達に教えた経験がなくても、クラス終了時にはガイドの仕方、子供達の注目の集め方など、具体的で、効率的な教授方法をしっかりと習得している。それ以外にも州立公園のエコシステムなどの学術的知識や、協働の仕方などの社会生活能力も学んでおり、学生一人ひとりがボランティアとして一生懸命働いてくれ、この州立公園をより良くするための新しいアイデアなども積極的に出してくれる。」と話してくれた。

別のSenior Capstoneの例で「Collaboration: Boys and Girls Club(ボーイズ&ガールズクラブ)」というクラスがある。このクラスは、NPO団体であるボーイズ&ガールズクラブがパートナー団体で、学生はそれぞれが専攻として学んでいることを子供達に教えるワークショップを毎週2〜3時間行い実践を通じて子供に物事を教え、指導する手法を学ぶ。例えば、アートを専門としている学生は子供達に絵の描き方を教えたり、生物学を専攻としている生徒は生態について子供達が理解できるレベルで話をして、子供達が生物学に興味を持つよう動機づけを図る。

こうした、プロジェクトを通じた実践型のクラスで学生はガイドや教授体験などを経験し、一方でコミュニティのパートナー団体は実際の労働力と様々な学部から来る学生の考えが融合されたイノベーティヴなアイデアを得る事が出来る。Senior Capstoneのクラスでは学生とコミュニティの双方に利益がもたらされる、いわゆる「互恵性」が成立しているのだ。

ではなぜポートランドでは他の地域とは違って、大学とコミュニティが積極的に協力し街の問題に取り組む試みが継続し、成功しているのだろうか。

5 広島修道大学グローカルイノベーションプログラム、オレゴン・バスプロジェクト訪問

広島修道大学グローカルイノベーションプログラム、オレゴン・バスプロジェクト訪問

ポートランド州立大学パブリックサービス研究・実践センターでは広島修道大学のグローカルイノベーションプログラムに在籍する学生を対象に10日間のポートランド研修を行っているが、今年このプログラムでポートランドを訪れた広島修道大学三年の岩本瀬里奈さんはこう話してくれた。「私は将来カフェを開きたいんです。日本でこの話をするとどうしても資金などの現実問題の話を先に持ち込まれます。でもポートランドでこの話をすると、全員やってみたほうが良いと背中を押してくれます。たとえ上手くいかず失敗したとしてもまたやり直せば良いと言ってくれるんです。」

彼女の話しからわかるようポートランドでは失敗を許容する文化、即ち、失敗を恐れず何でも

4 広島修道大学グローカルイノベーションプログラム、Day2スカベンジャーハントでのソルアンドストロー

広島修道大学グローカルイノベーションプログラム、Day2スカベンジャーハント中のIce cream shopにて

試してみる、それで失敗してもまた試行錯誤して次に活かせばいいという考え方が根付いているように思われる。ポートランド市民は”完璧”を求めるのでなく、むしろとりあえず試してみて、その軌道修正を徐々に行っていき、うまく機能しなかったら新しい策を考え、それをまた試す。その繰り返しで前進している。このポートランドの街の雰囲気が、ともに作業する学生とコミュニティの背中を押しているのではないだろうか。

また、ポートランドの人々はシビックプライドが強いとよく指摘される。”Keep Portland Weird (ポートランドをずっとヘンテコなままにしよう)”というキャッチフレーズに表現されているように、ポートランドの人々は自分たちの街に誇り持ち、他の街とは違う特別な街にしようと試みている。そのため人々の社会問題意識も非常に高い。自分たちの手でどうにか社会問題を解決しようと考え、コミュニティ団体を立ち上げ、実際に行動に移す人々はたくさんいる。「誰かがやってくれる」のではなく「自分がやる」という意識を持っている人が多くいるのだ。

私は、この「失敗を許容する文化」と「シビックプライド」が大学とコミュニティをつなげているのではないかと感じる。シビックプライドを持ってポートランドのために貢献したいと思っている大学とコミュニティが、お互い力を合わせとりあえずチャレンジしてみる。そして失敗したとしても、また違う案を考え、成功するまでチャレンジし続ける。大学とコミュニティが「街をより良くしたい」という思いを根底に、同じベクトルを向いているからこそ実現しているのだ。

2 2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップで日本の教授の方々とビアストーミング

2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップで日本の教授の方々とビアストーミング

自分の街をより良くしようと考えるシビックプライドを持つ人々の中で、また失敗しても次があると思わせる文化環境下で、大学が新たなアイデアを生み出し、それをコミュニティが支える。最終的にこれらが街の発展につながっているのだ。

これらの大学と街による努力の最大成果物がSenior Capstoneであろう。Senior Capstoneを経験して、将来ポートランドのために貢献したい、何かをしたいと思う学生は少なくない。またこれを機に自分で起業する学生もたくさんいる。Senior Capstoneはまちづくりを促進させるのみならず、実質的にポートランドを担う次世代の生産にも繋がっているのだ。

3 2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップ、セリーン宅でのホームパーティー

2017年コミュニティ・ベース教授法ワークショップ、セリーン宅でのホームパーティー

今、日本にはポートランド州立大学のようなEngaged Universityがどれほどあるだろうか。大学が人の集まる場づくりを行い、コミュニティ発展を手伝い、生徒の実践経験値のためにCommunity-Based Learningプログラムを作る。これらが実質的にまちづくりに貢献する。

日本の大学でも学生が地域の問題に対してコミュニティと協力して活動を起こす授業が増えれば、地域の発展のみならず、学生の実践的経験にも繋がって、より「知識をもって市に貢献する」学生が増えていくのではないかと思う。

 

参考文献

[1] About Portland State University

https://www.pdx.edu/about-portland-state-university

[2] Portland State University Departments

https://www.pdx.edu/directory/index

[3]21世紀における大学と社会 – Engaged University 南山大学大学部教授 五島敦子 P3

http://www.uejp.jp/pdf/journal/09/9_01goshima.pdf

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